先日買ってきた角川ホラー文庫「臓物大展覧会」を読みました。著者は小林泰三。
ネタバレがあると思うので、気になる人はスルー推奨。
全体としての構成は、いつもの小林泰三の短編集といったところでした。
プロローグとエピローグを除いて9編。
せっかくの短編集なので、1つずつ感想を書いていきます。
プロローグ
一人称は「あなた」。
これから始まるよ的なもので、本編とは特に関係ないです。
臓物にもそれぞれ物語があり、臓物を自分の身と同化させることによってその物語を聞け、という話。
これに関しては裏表紙の紹介文が素晴らしかったので引用しておきます。
彷徨い人が、うらぶれた町で見つけた「臓物大展覧会」という看板。興味本位で中に入ると、そこには数百もある肉らしき塊が…。彷徨い人が関係者らしき人物に訊いてみると、展示されている臓物は一つ一つ己の物語を持っているという。彷徨い人はこの怪しげな「臓物の物語」をきこうとするが…。
透明女
殺人シーンがいつもに増して凄惨。もとからグロ描写の上手い作家さんですが、この話はずいぶんと気合が入っている印象。
「透明ではない体の部位を透明なものと入れ替えることで透明女になれる」
「ウロボロスのように自分で自分の体を全て食べてしまえば透明女になれる」
この発想はちょっと意外でした。いつもみたいにSF調の展開だと思っていたから。
いじめの話からの展開は予想の範囲内でしたが、持って行きかたがよかったと思います。
「何してるの? なぜ謝るの? 何かの冗談なの?」
この台詞でミスリードさせられかけましたw
終わり方は個人的には好き。
あと、刑事がめちゃくちゃウザかったw 警部はいい人。
ホロ
小林泰三お得意の2人の会話による展開。そしてこれまたお得意の論理的な台詞で進む話。
どちらかと言えば SF な短編。
タイトルの「ホロ」は「幽霊」のルビ。
死んだ人間を、蓄積された外部からの観察データによって共有の幻覚として存在させる。観察は脳にチップを埋め込んだ人間によって行われる。
幻覚はチップを埋め込んでいる人間に共有されるが、ほぼ全ての人間が処置を行っているため、ほとんどの人が認識可能。
データはチップによってネットに蓄積される。
超簡単に世界観を説明するとこんな感じですかね。
ホロシステムの矛盾に気づく主人公と、その聞き役でストーリーが進みます。
まあ、よくある仮想現実系の話。微妙にバトルありw
主人公の話をおかしいと感じられる人には面白いかもしれません。
俺は読み終わるまで分からなかったです。
この手の話は好きなんですが、読むのが苦手。
少女、あるいは自動人形
人間と見分けがつかないほど精巧なオートマータを見抜けるか、という試験に招待された主人公の話。
ストーリーは主人公の思い出話として語られます。
テーマはあれかな、「ロボットは人間よりも上の存在か」というやつかな。
この話ではオートマータですけど。
「毎回決まった反応をしないのが、心の証拠ですと! だったら、心というものは単なる壊れた歯車にすぎないということになるではないですか。(後略)」
「人獣細工」の自動人形版な話でした。
ただ、今回は特に大きく盛り上がる場所もなく、二段落ちの内容も普通な感じ。
まあ、そういうもんだと思って読めば楽しいんじゃないでしょうか。
攫われて
この本では一番好きかも。密室トリックもどきと記憶系ネタ。
死んでるはずの人が崖下から戻ってきたのはホラー小説ならではw
ミステリ的にはアレな展開かもしれませんけどw
誘拐犯と主人公の残虐性の相似がおもしろいです。
逃がさないために殴り、脚の腱をナイフで切る殺人犯。
自分たち2人が生き残るために、友人を(生きているかどうか確認せずに)裸に剥いて崖から突き落とし、犯人の腹を刺す主人公。
オチはわりとありがちな感じですが、個人的には好きな展開。
子供が仕掛けたトリックを犯人が必死の推理で解き明かす場所が見所だった。
そういうのもあって何だかコメディ風。
釣り人
どちらかというと SF な気がします。
ショートショートと言ってもいいほど短い小説。
簡単に言うと UFO とか宇宙人とかが出てくる話。
UFO に攫われて色々された記憶を消されたけど夢を記録して思い出すという、UFO 好きなら知っている展開で進んでいく。
で、思い出した内容についてですが。
「キャトルミューティレイションだ!」
この一文はずるいよ。笑っちゃうよ。
さくっと読めていい物語だと思いますよ。
SRP
ウルトラマン系の特撮、陰陽道系のオカルト、宇宙・未来系の SF を一緒にしたような話。
すごく漫画的な印象。
「ΑΩ」のときにも思いましたが、作者はウルトラマンが好きなのかな?
内容も「ΑΩ」的。真面目に読まないほうがいい気がします。というより、難しく考えずに読むのがいいんじゃないかと思います。
個人的にはあまり好きじゃないです……。
十番星
何だか既読感があるなあと思っていたら、アンソロジー「十の恐怖」で読んだことがありました。
なぜか分からないけど、読んでていい気分しないですね、この話は。
好きな作家さんである小林泰三の小説の中でも、何回も読みたくないものの一つです。
造られしもの
「少女、あるいは自動人形」と共通するテーマがありますが、こちらは完全にロボットと人間の関係のみ。
ロボット三原則が機能しているという前提があってこそのストーリー展開。
ネタバレですが、
待てよ。男は思った。なぜ医師ロボットは俺の死を見過ごそうとしているのだろう? まさか……。
「そして、また次の人間を設計し、製造する。われわれロボットのために」
これに尽きますね。
なんとなく「綺麗な子」を思い出しました。
悪魔の不在証明
津山三十人殺し的な。
タイトル通り、悪魔の証明を使った話。
キリスト教の教えを広めようとする青年に、主人公が論戦をしかける。
「神がいることを証明してみせろ」と。
対して、青年は
「では、いないことを証明してください」
論戦が多いので内容はそんなに多くないです。ストーリーとしては薄いという印象を受けました。
好きですけどね、こういう話。
エピローグ
9つの臓物を飲み込んだのなら、次はお前が物語を語るのだ。
とかいう内容。
「ここで本の中身は終わりですよ」ということ。
全体としてはどうもパワー不足な気がします。好みの問題だとも思いますが。
デビューが強烈だったから、無意識にそれを求めているのかもしれないですね。
同時期デビューの瀬名秀明の作品をだんだん読まなくなっていったのはそういう理由がありました。
ただ「透明女」「攫われて」といった強く印象に残るものもあるので、まだまだ期待しています。
俺はこの作家さんは短編~中編でこそ輝くと思っているので、異形コレクションにももっと参加してほしいです。
あのシリーズはいいものです。