Review › 薔薇の家、晩夏の夢

東京創元社の創元クライム・クラブから出版されている倉阪鬼一郎の「薔薇の家、晩夏の夢」のレビューです。
短いですが例によってネタバレありますので、嫌な方はここでやめておいたほうがいいかもしれません。

単行本の帯には

赤いランドセルを背負い通った薔薇の丘の上、
伯父さんからもらった
最後の「宿題」は
世界の秘密の鍵だった――。

とありますが、読んだ感想では世界の鍵でも何でもなくて、雰囲気小説って感じでした。
いや主人公のミコにとっては世界の鍵かもしれないですけど。

伯父さんから毎日「宿題」という名の暗号を貰って、それを解くという遊びですね。
普段ミステリとか読まないので分からないんですけど、ああいう暗号ってありなんですかね? ありならありで別に構いませんけど。

ストーリーは本当に何ともないものなので説明しづらいです。
風と薔薇と洋館の世界を楽しむ本だと思えばまだ何とか……。

そうそう、本作に出てくる薔薇言語ですけど、正直ちょっと微妙でした。
舞台を彩る装飾としても何かくどいような気がしてしまって……。
気に入った方がいたら申し訳ないですが。

ここからは完全なネタバレですが、メアリを殺した人は最初のほうから誰かまるわかりなので、謎解きとかいうものではないですよね。
マコは実際にはいないっていうのも、夏彦がミコにしか話しかけていないことと、父親である冬彦と会話しているのもミコだけ、というシーンが多かったので薄々感じてはいましたが、冬彦が死ぬ直前あたりで確実だなーと感じました。
母親のひとみについても、まともに会話しているのが冬彦のみだったので変だと感じましたね……。冬彦がナイフで斬りかかる場面で何となく確信できたというか。
ミコの実際の年齢も、中盤あたりで気づけるかなーと思います。

全部読み終わった後、ミコの容姿、年齢、振る舞いなどを合わせて、ストーリーをなぞりながらにやにやするのもいいんじゃないでしょうかw
個人的にはミステリというより、暗号文をアクセントに使った幻想小説に分類したいところです。

他人に勧められるかと訊かれたら、微妙ですね。たぶん「やめたほうがいいかもしれない」と答えるかもしれません。
こういう雰囲気小説が好きな人になら勧められますけどね。

1回でお腹いっぱいな感じの小説なので、もし読み返すにしても5年後くらいでしょうかねぇ。

Review › ひだり

角川ホラー文庫から出ている倉阪鬼一郎の「ひだり」レビューです。
この小説は「うしろ」「すきま」と同じシリーズ物。
と言っても直接のつながりがあるわけでもなく、この2作の登場人物(キム・イェニョンと聖域修復師の人)が脇役として出てくるのみ。
一応、2人とも過去作の記憶はあるようです。

困ったことに、この作品に関しては特に感想がないです……。
というか、このシリーズっていまいち面白さが分からないんですよねえ。
大雑把に言うと、超自然的な悪があって、神聖な場所が穢されて災いが起こる、というのがシリーズを通じての展開。
主人公はそれに巻き込まれる役。
今回は主人公死んじゃったけど。

ホラーとしては王道な展開かもしれないけど、何かもやもやする。
そういえば『ブランク―空白に棲むもの』を読んだときにも思ったような……。
こっちは一応ミステリですけど。

何か、最近の倉阪鬼一郎の作品に勢いが感じられないような気がする。
前からこんな感じだったっけなあ。
出てくるネタとかワードはいつも自分好みなんですけど、どうも盛り上がらない。

でも、いつかまた交響曲シリーズをやってくれるかも……と思うと、買い続けずにはいられない。
「The End」も「汝らその総ての悪を」も楽しめました。読んでてわくわくしましたよ、本当に。
倉阪鬼一郎のオススメ作品を訊かれたら、この2冊を薦めますね、間違いなく。
まあ「THE END」を友人に読ませたら「意味分かんね」とだけ言われたりしましたけどねw